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【最終回】初夏のスズキ[本牧]|透き通るような白身 スズキを余すところなく堪能 メバル五目料理
魚のことならお任せ ウエカツ水産&魚屋 ニシガタ ニッポンの魚“スズキ”を堪能す!
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 スズキは、夏の魚だ。繁殖期を過ぎて体力も回復、引き締まった白身が清涼感を呼ぶ。
そのスズキと聞き、今回は夜釣りかと思ったら、真っ昼間の船釣りだという。エサは生きエビと聞けば、スズキよりマダイが食らいつきそうだ。昼近くなって船上の上田(以下U)氏に電話してみる。
U「釣れてるよぉ、みんな70センチクラスだ」
真夏日のような日差しに、私(以下N)は釣果を期待していなかった。慌てて野菜を仕入れ、台所の準備に取りかかる。おっと、気合いのビールも忘れちゃいけない。
陽焼けして帰港
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スズキ釣りでは堤防や護岸近くも重要なポイントに
 スズキには沿岸を回遊するスズキと、外洋の荒磯を好むヒラスズキがいる。近年話題のタイリクスズキは、養殖用に中国から輸入した種が逃げ出したと考えられる。現在のスズキ目スズキ科は、この三種(日本産魚類検索全種の同定第三版・中坊徹次編)。
 U氏らの釣ったスズキは、沿岸回遊型だ。ヒラスズキに比べると細長く見えるが、丸みのある体は肉厚である。保冷箱に横たわった姿は、見とれるほど美しい。神経抜きされた筋肉が、気持ちよさそうに休んでいる。
N「洗い…で、よさそうだね」
U「料理は好きにしてくれ。下ごしらえはオレに任せろ」
料理の「洗い」とは、脂のあまり乗っていない白身魚でよく使う。死後硬直前の下ろしたてを削ぎ切りして、素早く冷水で洗う。筋肉は縮みあがって、冷たい! と言わんばかり。そこをすかさず酢味噌でいただく、夏の風物詩だ。
下ごしらえは、基本通り。ウロコ落としで、ケガをする鋭いトゲとエラぶたを真っ先に切り取ってしまう。腹を開いて白子(精巣)がないのは残念だが、繁殖期を越しては致し方ない。真っ白い浮き袋を見つけてよしとしよう。私の料理は決まった。
スズキ三昧&はらす焼き
 皮を引いた片身はサク取りして、2ミリほどの厚さで削ぎ切る。切り身を広く取るには、包丁を寝かせるといい。1枚ずつ丸皿の外側から並べて、角度が辛くなったら皿を回す。2〜3回転したら、中心に湯引きした皮、胃袋、浮き袋を添える。
 スズキの腹には、宝物が詰まっている。春先に白子を見つけたら、湯通してポン酢で食べるといい。言葉を失うほど、絶品である。皮は煮すぎないこと、1〜2秒湯引いたら冷水に取って刻む。胃袋はしっかり茹でてから、水洗いして横に細切りする。
 真っ白い浮き袋は沸騰した湯に入れて、全体が透明になった瞬間に冷水に取る。水気を切ったら千切りして、ポン酢しょう油も捨てがたい。今日は、一皿にスズキの全身を盛りつける。 
大きく切り取った腹身も塩焼きにして、香ばしさが余韻になってビールが進む。ここでU氏が入れ替わって、台所に立つ。
スズキの皮炒め&酒蒸し
 U氏はフライパンを持ち出して、何やら講釈を始めた。やがてスズキの脂と塩の焦げる、いい匂いが立ちこめる。玉ネギが入ったらしく、匂いに甘みが加わると辛抱限界。缶ビール片手に近寄れば、思わず手が伸びる。  次の料理は、秘密裏のような静けさの中で終わった。撮影中をのぞき込むと、爽やかな一品である。カメラマンが何度もアングルの調整をするときは、被写体が良すぎるか悪いか。目の輝きは、明らかに前者であった。
東京湾のスズキ
 沿岸回遊型のスズキは、河口域や工業地帯の排水口周りに寄る習性がある。そのためだろうか、ときとして不快な匂いをもつ。生活環境が、身につきやすいのだろう。近年に嫌う人が多いのは、そんな原因にある。
N「今日のスズキは良かったねぇ、横浜沖とは思えないよ」
U「半世紀前の最悪だった東京湾が蘇っている。この結果は楽観と甘えを導く恐れがある。つぶしたのは人間だが、再生させたのは魚を含めた生物と太陽なんだ」 
東京湾は房総半島南端の洲崎から、三浦半島南端の城ヶ島を結ぶ内面積約1320平方キロメートルをいう。さらに富津岬と観音崎を結ぶ、内湾と外湾に区分けする。形状はタコ壺形で、多摩川や江戸川など大型河川の流入が、その循環を則していると思われる。
『食楽』で数回の東京湾特集を組んだのは、首都圏にいても膝元である海の現状が、あまりにも知られていないからだ。
 東京湾は、生きている。彼らの叫びは、食べないとわからない。美味しいと感じるとき、私たちは海を思う。土を思う。それを冒涜しても、美しい自然が残るだけなのだろう、けれど。
スズキのさばき方
大きな魚体。ウロコが硬い。さらにヒレには鋭利なトゲ。さばくのが大変そうだが、ポイントを押さえてしまえば大丈夫。今度の釣果で挑戦して。
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ハサミなどですべてのヒレを切る。ヒレにあるトゲで怪我をすることを回避。
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ウロコをしっかりと落とす。
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ステンレスのたわしでこする。粘液を落とし消臭効果がある。
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喉元からエラの付け根を切り、そのままカマ上で頭を切る。
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肛門から頭に向かって内臓を傷つけないよう逆さ包丁で喉元まで切り上げる。
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頭を持って内臓をつなげたまま腹側方向に引き出し、最後に内臓と肛門のつながりを切り離す。
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包丁のアゴ(刃元)をこそげるように使い、浮き袋を身から少しずつ剥がしていく。
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腹の中の背骨沿いの血合いなどに水をかけながら歯ブラシなどでこすり洗う。
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尾びれ部分に切れ目を入れる。
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腹側、背側の順に背骨に沿って包丁を入れるが、腹骨と背骨のつながりは切り残しておく。
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布巾で身の尻尾のあたりをつかみ、頭に向かって一気に背骨から身を引き剥がす。スズキは腹付近の背骨の断面が三角形なので、このような方法をとる。
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反対側の身も同様に骨からはずす。
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腹骨をすき取る。スズキの場合は、腹の身が薄いので、腹骨に大きくつけて切る。
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皮を削ぎ取る。
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血合い骨を腹身につけて背・腹に切り分ける。
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腹身から血合い骨を切り離す。
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3枚おろしの完成。
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西潟正人◎にしがたまさひと(文)
1953年新潟県生まれ。逗子市で地魚料理店「魚屋」を20年間営んだ後、新聞などでの原稿執筆やTV出演などをするように。著書に『ウツボは笑う』(世界文化社)、『日本産 魚料理大全』(緑書房)などがある。
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