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【第7回】〜シリーズ東京湾 vol.1〜八景沖 金アジ|旨いが跳ねる “金アジ”美味尽くし
魚のことならお任せ ウエカツ水産&魚屋 ニシガタ ニッポンの魚“東京湾の金アジ”を堪能す!
 国道16号線を、横浜方面から南下。磯子、新杉田あたりは昭和30年代に埋め立てられた新興地。そこが海だったとは、想像もできない。
 東京湾の埋立は江戸時代の中期から盛んになり、75年間に613の新開地が造成されている(西山松之助 著『江戸学入門』)。戦後に再開された埋立事業は、高度成長期に加速したまま、止むことがない。
 千葉の木更津から横浜までは、京葉と京浜工業地帯だ。そのコンクリートの垂直護岸に囲まれた海で漁業が営まれている。かつて江戸前を誇った、東京湾の魚は健康なのだろうか。答えは、釣って食べなきゃわからない。
旨いと評判の金アジって、なに?
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 横浜市から横須賀市に入る手前、「瀬戸神社前」信号を左折すると平潟湾だ。軒を連ねる船宿の一軒が「荒川屋」で、桟橋に立つと景勝地と謳われた「金沢八景」に納得できる。
「50年前の平潟湾は、今の三倍広かった。みんな貸しボート屋でした」
 荒川屋社長の山下貞光さん(58)は潮焼けした笑顔が似合う、優しい人だ。カゴに入った筒は船に持ち込む灰皿で、『タバコを海へ捨てないで下さい』とある。環境を守る心意気に、こんな漁師がいたのかと感動を覚える。金アジのことを聞くと、待ってましたとばかり目が輝いた。
「外海を回遊する黒アジに比べ、沿岸のアジは小型で腹が黄色い。この辺りでは金アジ、黄アジって呼び、昔から有名でしたよ」
 マアジは海域によって色や体形に変異があり、遺伝子プールが異なるであろう系群も多く知られる。今回の金アジは黒アジと同じ遺伝子ながら、食べて旨い方は、俄然キン! 身は透き通るように引き締まり、きめ細かな脂は黒アジと別モンだ。
 漁場は、すぐそこ。米軍と自衛隊の基地が、目の前だ。近寄りすぎると、武器を向けられると言うから横須賀の漁業は命がけだ。U(上田)氏は、悠然と釣りを始める。
「N(西潟)さん、料理には何尾必要かね。60尾? まぁ楽勝でしょう」
 いつものように、スタートは鼻息が荒い。想定外…という言い訳を払拭して、私も竿を出す。
 手取り足取り教えられて、いきなりククッと手応えあり。釣れた金アジは15センチほどで、腹が黄金色に輝く。そして淡く青い背に暗褐色の横縞が走り、手につかんだ弾力で“旨さ”を確信した。
「100匹は釣ったろう、そろそろ上がろうか」
 舳先で寝ていたら、そんな声がして起き上がる。11月なのに、真夏の日差しだ。船が風を切りだすと、焼けた肌に潮風が心地よい。
香りよし、脂よし。旨さが違う釣り金アジを贅沢に楽しむ
釣果は上々!後は料理に集中するのみ
 帰港まで、わずか20分。クーラーボックスを開けると、八景沖の金アジが、冷たそうに詰まっている。10〜15センチがほとんどで、細かい仕事になりそうだ。
「最初に、30尾ほど下ろさせてくれ。塩で締めたいんだ」
「締めアジか、いいね」
 アジに限らず、小魚の下ごしらえにはコツがある。手順は1尾ずつではなく、一斉にこなす。
(1)頭部を胸ビレ際から落として腹を開き、腹ワタを掻き出す。
(2)水洗いして、水気を拭き取る。
 手順は、この二つ。残るは、三枚下ろしだ。
 基本通り三枚に下ろしたら、腹骨をすき切る。皮は引かない、アジ特有のゼイゴも取らない。10匹分、20枚の片身はザルに並べて塩をふる。塩が魚の水気を吸って、しっとり溶けてきたら水洗いする。水気を拭き取ったら、生酢に漬けて2時間だ。
 残った20尾分、40枚の片身は手で皮を剥ぐ。頭の方向から皮をつまみ、親指で身を起こすようにしながら、最後はベリッと剥がす。ゼイゴも一緒に剥ぎ取る。
 味噌と長ねぎは、漁師料理の基本調味料。皮を剥いだアジはぶつ切りにして、味噌とねぎに叩き合える。粗っぽく叩いて、舐めるように食べるから「なめろう」という。これを伸ばして、焼くと「さんが焼き」。氷水で溶いた「水なます」は、二日酔いの朝に持って来いだ。
 締めアジは各自で、皮を剥ぎながら食う。なぜって金アジのような素晴らしい香りの持ち主は、皮を剥いだ瞬間が旨い。空気に触れる時間が長いほど、香りは劣化してしまうのだ。
「贅沢な締めアジだなぁ…。なめろうにはもったいないようだが、旨さが違う。金アジは、脂が甘いんだね」
「下ろしていると、包丁が喜んでいるのがわかる。ダメな魚だと、投げ出したくなるよね」
 U氏の料理は、塩アジと甘酢漬け。その下ろし方が、一風変わっている。手慣れた漁師がやる、手包丁だ。首根っこをつかんでエラを引きちぎり、そのまま腹ワタを出してしまう。それだけ。大きな魚ではムリ、小アジに適用するので覚えておきたい。
金アジ美味尽くしの戦いが終わって…
 金アジは、料理しながらついつい、つまみ食いをしてしまう。皮を剥いだ瞬間に、ほとんど無意識にやってしまう。カメラマンに「アッ」と叫ばれ、仕方なく1枚を口へ入れてやる。共犯だな。
「この金アジなら、料理を選ばないね」
「いや、だからこそ魚の味を大切にしたい。甘酢漬けは油で揚げない南蛮漬けだが、鷹の爪も使わないんだ。金アジだと、辛みに負けてしまうだろう」
 調理中の缶ビールは焼酎へと変わり、撮影を終えた料理が、肴になった。手を加えない簡単料理になったのは、釣って触れたからだ。金アジは、まるで「旨い」が跳ねているようだった。魚の味は、海の健康に比例する。東京湾口に位置する、八景沖だからだろうか。海は澄み切った空を映して、青く輝いていた。沿岸を回遊する金アジの、元気な泳ぎをしっかり見つめた。
「湾奥の魚は、どうなってるんだろうね」
「しばらく、東京湾を攻めてみようか。釣りを含め工業地帯での漁業は、全国が抱える問題だから」
 なめろうをつついた箸で、冷めたさんが焼きをつつく。腹身は混ざり合っても、皮の輝きでそれとわかる。焼き味噌が金アジの脂に絡み、香ばしく固まっている。硬派な酒に、これ以上の肴はない。西向きの窓はすっかり暮れていた。中年男の顔が二つ、こっちを見ている。
金アジの下ろし方
包丁を使ってきれいに下ろすだけでなく、手で内臓を取り除く下ろし方も覚えておくと、船上などで調理する際に便利です。
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エラを広げて親指と人差し指を入れ、エラとアゴを摘む。アジは手で触った数だけ味が落ちると言われ、この後の行程も手早く行いたい。
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そのまま尾びれの方に引っぱる。内臓がちぎれないようにエラとアゴはしっかり持って。肛門の手前にあるトゲのような遊離棘(ゆうりきょく)に注意。
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内臓を取り出した後、血合いを取り、腹の中の汚れを歯ブラシなどでこすって落とす。キッチンペーパーで余計な水分を取る。
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後頭部辺りの皮のはがれ目を持ち、尾びれの方に向かってビリビリと皮を剥ぐ。ゼイゴも一緒に剥がしてしまう。
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尾びれから頭に向けて、背骨に沿って包丁を入れる。包丁が腹骨辺りに来たら軽く腹骨あたりを指で押す。腹骨も一緒に切り分けることができる。頭まで来たら包丁を上に向け、身と頭を切り離す。
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すぐに食べない時は(3)の後、たっぷりの塩をあて、1時間程度経ったら、水で洗い、水気を拭き取る。そのあと日本酒をアジ全体によくまぶす。密閉容器にキッチンペーパーを敷きアジを並べ、そのアジの上にペーパーを敷き、アジを並べ…を繰り返す。冷蔵庫で2週間程度もつ。調理するときに水で洗って塩出しをする。
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アジの刺身
(5)で捌いた身を器に盛り、下ろしショウガを添えればでき上がり。釣り立てはクセがなく、軽やかな脂も乗って美味!
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西潟正人◎にしがたまさひと(文)
1953年新潟県生まれ。逗子市で地魚料理店「魚屋」を20年間営む。その後、東京新聞や日刊ゲンダイで連載の執筆や、TV旅チャンネル『漁師町ぶらり』のナビゲーターとして活躍。『釣魚料理図鑑I&II』(エンターブレイン)や『魚で酒菜』(小社)など著書多数。近著に『ウツボはわらう』(世界文化社)がある。
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