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【第11回】〜横須賀〜春の五目釣り|特別に旨い 春を告げる魚
サカナいろいろ春の東京湾に歓喜
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 新安浦港から船を走らせわずか10分。
 釣り船・千代吉丸に乗ったウエカツは、眼前の猿島に目をやりながら、海中へと仕掛けを送った。
 寄せ餌を振り出しながら仕掛け分を巻き上げ、静かにタナを合わせると、穂先をククッと押さえる魚信がすぐに現れる。アジだ。
 道具はアジ用。漁場もアジのいる根。ゆえにここでアジが釣れるのは当然であるが、この日、ウエカツが期待していた魚はアジだけではなかった。
 そう。ひそかに期待していた魚はメバルやカサゴ。冬から春にかけて、猿島回りのアジの釣り船でも混じって釣れることがあり、これが特別に旨いのだという。
 しばらくして、アジの鋭角なアタリとは違う、重く引き込む魚信が竿先に訪れた。巻き上げると、大きな目玉をした白黒だんだら模様の魚がシッカリと針に掛かっている。メバルだ!
「白だな」釣り上げたメバルをはずしながらウエカツがつぶやく。
 沿岸で釣れるメバルには、3種類あるという。白メバル、赤メバル、そして黒メバルだ。この3種は長い間、棲息環境によって色の違いがあるだけの同種の魚だと思われていた。ところが、最近になって、あらためてDNAやヒレ筋の数を調べてみたところ、実は別の種類だったということが判明したのだ。かつてこの連載で紹介した黄アジと黒アジの問題同様、魚には解明されていないことが、まだ沢山あるようだ。
魚種や魚体によって締め方を変える
 メバルを釣り上げたウエカツは、それを海水かけ流しのバケツへと入れた。いつもなら、即座に脳天へと手鉤を差し込み動きを止めるはずの彼にしては、珍しいことだ。
「この季節のメバルは流れてくる海苔をけっこう食べていて、未消化のまま腹にも入っているもんで、そのままでは海苔臭い。それを風味というとらえ方もできるけれど、そこは好き好きかな。わずかな時間でも泳がせて海苔を吐かせてやるだけでも、ずいぶん違うもんなんだよ」
 魚の締め方も、その魚種や時期によっていろいろなのである。
 さらにウエカツは、サイズによって締め方を変えていた。
 大きなメバルはいつも通りに神経締めを施すが、小さなメバルは、エラの根元から頭の方向へナイフを差し入れて、血管と頭蓋骨を同時に破壊する延髄締め≠ニいう処理を行う。これは、触るほどに劣化する小さい魚を速やかに締めるのに適しているとのこと。カサゴも然り。
「小さいのは、神経まで通さなくても効果は出るからね。ただし、アジだけは小さくてもシッカリと神経を壊してやると、断然味が違ってくるよ」そう話しながらも作業に余念がない。
 本当にその魚に適した旨さを活かすためには、それぞれに手当ての方法も違ってくるということのようだ。
 毎回、この取材に同行しているダイワ・フィッシングインストラクターの小堀友理華も、今回は神経締めに挑戦していた。
 しかし、脳天の急所を一刺しするためにウエカツが小堀に渡したのは、ウエカツ愛用の手鉤ではなく、なんと細いプラスドライバー。
 そんなもので魚が締められるのだろうか。
「ま、手鉤は慣れないと使いにくいし、だからといってキリみたいに尖ったモノを使うと、先が頭蓋骨を突き抜けちゃって、一発で殺せない。その点、プラスドライバーだったら先が鈍角だから、脳をこわしたところで止まってくれる。慣れないうちはこれがいい。なんてったって100均だし」なるほど納得である。
カサゴの神経締め
すでにこの連載では何度となく紹介してきたが、今回はカサゴの神経締めを紹介しょう。一度試してほしい。
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目と目の間のやや上方から、側線の始点あたりを目安に手鉤を差し込み、奥にある脳を破壊して即殺。手鉤に馴れてない人は刃先が突き抜けぬようプラスドライバーが◎。
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エラブタを開き、カマの骨に沿って白い膜を切り裂き、背骨の下の動脈を切断する。背骨を切断しないよう注意。魚が泳いでいたのと同じ温度の海水に浸けて放血する。
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放血がおさまったら魚を取り出し、即殺時に空けた脳天の穴からワイヤーを差し入れて神経を破壊する。
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海水氷に魚を5分ほど入れて十分に冷やしてから引き上げ、身に直接氷が当たらないように、少量の氷で5℃程度の冷えすぎないクーラーで保管する。
「春の五目釣りのポイント」
 東京湾での春の釣りは、海底や海底近くにいる魚がメインのターゲットになります。カサゴ、イシモチ、メバル、カレイ、アジなどです。水温が一年で一番低い季節であり、状況によっては釣り場が大きく変わることがあります、時には深い場所での釣りになることや、極めて魚の活性が低いこともあり、その日の状況をいち早く察知して対応できるかが、春の釣りのポイントになります。通常、エサを揺らして誘うカサゴなども、竿先を止めてエサを動かさないほうが効果的であったり、釣り人の創意工夫とテクニックの見せ場となる季節です。
 当然、道具の性能による差も明確になります。海底でじっとしている魚の微かな気配を察知する、伸びのない、細いPEの道糸。感度のよい竿先のロッドと軽量で操作性のいい小型電動リールなどで、釣果の差は明確になります。その昔は難しかった春のアジ釣りなども、道具の進化に伴い手軽に良く釣れる釣りになっています。
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