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【第1回】駿河湾 駿河サバ|今、一番新しいブランド魚 駿河湾の”駿河サバ”
 本来ならば、雄大な富士山が船上から遠望できるはずであったが、低く垂れ込めた暗い雲が霊峰への視界を遮ぎっていた。
強烈な向かい風の中、沼津港を離れ漁場へと向かう森田丸の甲板上は、バケツをひっくり返したような波しぶきに見舞われている。
そんな中、何食わぬ顔で道具の準備をはじめる男。
「漁師は、このくらいの波だったら平気で漁出ちゃうの多いからさ。一番スゲェと思ったのは長崎の二艘底曵き漁船。台風の波で船がクジラみてぇに立ち上がってさ。船ん中にいると、ミシミシミシィ〜って上がっていって、それで急に体が軽くなってズッド〜ンって落ちてね(笑)」
この男こそ、漁師から水産庁職員となった異色の官僚・ウエカツこと上田勝彦だ。ウエカツが強風の中、海に出たのには理由がある。
経済産業省が認定する『農商工等連携事業計画』。“農林水産業と商業・工業等が連携の強化を目的として新商品の開発や販路開拓等に取り組む中小企業者および農林漁業者に対し、経産省が総合的に支援する”というこの計画に、この2月、選定されたばかりの事業がある。
「駿河サバ」である。駿河湾で一本釣りで揚げたゴマサバを、活け締め生ゴマサバとして消費者に提供。新しいブランドサバとして確立しようというプロジェクトだ。
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旬の初夏を迎えますます旨くなる駿河サバ
 この駿河サバを自ら釣り上げ、その力量を見出そうと、ウエカツはやって来たのだ。
「ここらですっか」
御年71才の森田丸船長がスロットルを弱める。森田丸の所属する沼津市“我入道漁協”こそ、駿河サバプロジェクト連携体の一翼を担う漁業者である。
「この波じゃ他に行けね〜からよ。でもここでもサバぁ釣れるよ」
伊豆半島の北西に突き出た大瀬崎が風を遮る漁場で、慎重に船を回しポイントを見極め、ココゾという地点にアンカーを打つ。
「これだけの腕を持つ漁師さんでも収入が減っているという現実が、駿河サバを立ち上げた理由です」
同乗したプロジェクト連携体の流通業者であり、発起人でもある“ヘンリーブロス(株)”代表の江嶋力が語り出す。
「巻き網か…」
厳しい表情を浮かべるウエカツ。
「駿河湾てなぁ、天然の定置網みたいに深場から急に浅くなって魚が留まる、漁師にとっちゃあ魅力的な漁場。でも魅力的なのは地元の漁師だけじゃなく、よその漁師にとっても同じなんだね。それを狙って大型船団が他港からやってきちゃあ、魚が駿河湾に入ってくる前に巻き網漁で獲ってっちまう。この問題は大きい」
巻き網漁とは、深さ100メートル以上、長さ数百メートルにも及ぶカーテン状の巨大な網で魚群を囲み、最後には網の最下部をキンチャク様に絞り、囲んだ内側の魚を捕獲する効率的な漁法である。
「もちろん地元の漁師が釣りで揚げた魚の方が巻き網よりもいい値はつく。でも巻き網で大量に獲ってきたのを市場に持ち込まれると、その安さに、釣りモノの魚の値段までが引きずられて下がるわけ」
漁場そして市場。2つのフィールドでのこの行為は、地元漁業者にとって自らの進退を迫られる深刻な事態である。
「高度成長期の大量消費を前提に生まれた漁法なんだけど、今はそんな時代じゃない。これは変えていかなきゃならない」
ウエカツがつぶやく。
「そこでゴマサバなんです。例え巻き網でゴマサバが安い価格で水揚げされても、最高品質のゴマサバなら完全に差別化ができ、絶対に値崩れしないじゃないですか」
熱意のこもった江嶋の声にウエカツがうなずいている。なぜ高品質のゴマサバは、巻き網の廉価なゴマサバに引きずられて値崩れすることがないのか? その答えは記事の最後までとっておこう。
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(左) 暗い水面に現れたゴマサバは、躊躇せず引き抜く。それがブランドサバへの第一歩だ
(右) 仁王立ちで輝く眼光まさしく漁師のそれだ
夕闇に包まれる海上ついに駿河サバが!
「60ヒロくらいだね。やってみて」
森田船長から釣り開始の合図がかかる。60ヒロといえば水深90メートル。しかし大瀬崎の突端から船までは200メートルあるかないかの近距離である。
「この急激に深くなっているのが駿河湾のすごいところなんだよ」
ウエカツが仕掛けを水面に投じた。着底を待ち、底をとり、誘う。その表情はいっそう漁師そのものになる。
サバがくるのは陽が暮れてからと船長はいっていたが、竿には早くも生態反応が現れる。
「サバじゃあねぇなぁ〜」
そういいながらリールを巻き上げると釣れたのはヒメ。うれしそうにキープし、釣りを続けるウエカツに、アズマハナダイ、ウスメバルといった魚がポツリポツリと喰ってくる。
「まぁ、陽がくれる本番までユッタリといきましょうか」
そういっていたウエカツの竿先が突然大きく引き込まれる。そして上がってきた魚に船上全員驚いた。5キロほどの身厚のヒラメ!! 針にかかったヒメをくわえて釣れたようだ。駿河湾の漁場としての魅力に誰もが納得した瞬間だった。
そして午後6時。ついに陽が暮れた。風も波も急に収まった。
「魚探が真っ赤だ〜よ!」
船長がそういう通り、魚群探知機の30〜40メートル付近が魚の反応で真っ赤になっている。
時合が到来した!
後はもう40センチを超える丸々としたゴマサバの入れ掛かりだ。
しかしこの取り込みこそが、ブランドサバたる駿河サバにとって最初の重要なポイントになるのであった。
「釣り上げてからバタバタさせてストレスを与えっと、魚の体にどんどん疲労物質が溜まる。これが肉質を低下させる」
ウエカツは、サバに手を触れることすらなく、あがった魚をどんどんイケスに入れていく。
「イケスに入れて休ませることで疲労物質が分解されてくから、できれば一晩、入れておくといいね」
釣り続けること2時間。満載となったイケスとともに、船は沼津港へと戻った。
遊魚としては未開の「駿河サバ」を初めて狙う!
 今回の取材、ダイワスタッフがもっとも頭を悩ませたのはタックルの選択。そもそもサバと言ってもブランド魚の「駿河サバ」。その海域にあって、このサバの釣り方が遊魚として確立していない。さらに良型のサバは夜釣りとのこと。おまけに錘負荷もはっきりしない状況。
そこで許容量ある取り回しのいいロッド、パワフルな電動リールの準備を進め、何があっても対処できる気構えで臨むことに。タックルは、強度と粘りのグラスソリッドの1ピースロッド「ディーオ2(150号180)」、青物や根魚までカバーできるパワーとスピードを切り替えできる電動リール「レオブリッツ500MT」にPE6号(300m)のセットを駿河湾に持参した。
初夏の昼下がり、港で船長と仕掛けの確認。潮も早いらしくサバの切り身を餌とする胴突き仕掛けに、200号の錘とあってビックリしたが、タックルは十分に想定内なのでひと安心だ。
今回、実際に釣ってみて、漁の仕掛けもいいが、遊魚としては非常に長く扱いにくいので、不安な方は捌きやすさを考え仕掛けを持参するのが無難だろう。ハリス8号以上、幹糸10号以上、ムツ針15号程度の6〜10本針の市販の深海用船釣り仕掛けでいい。オモリは150号〜200号を、潮流を見ながら使用する。釣れ出すと大漁も大いにあるのでクーラーは大型のものを持参することを忘れずに。
駿河サバをつらせる釣船
沼津港「森田丸」TEL 0559-32-4550
毎日漁に出る漁船。船は漁船そのものだが、釣らせる腕はピカイチ。乗り合いは無く仕立て専用になるので、4〜6人程度がよい。
この日の仕掛け&タックル
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魚種の豊富な駿河湾だけに、どんな大物がかかっても対処できるよう、パワーとスピードを兼ね備えた電動リール、レオブリッツ500メガツインにはPE6 号を巻き、汎用性のきわめて高いロッド、ディーオ2を組み合わせる。ハリス間がきわめて長く、そして太い仕掛けは、とり回しこそ素人には若干難しいが、頑丈そのもので耐久性に優れた、いわば完全職業漁師仕様。
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