ダイワの小堀は沖釣りマニアには有名。手返しの速さ、恐るべし
船の上の心地よさに「サンセールが飲みたい」と熊坂女将

船が止まった。港から十分弱。某港防波堤のすぐ横という意外な海上。しかし、このテトラポッドに囲まれた防波堤突端こそが、カサゴ釣りマル秘ポイントなのだ。
防波堤は立入禁止なので、船からしかこの場所を攻略することができず、さらには、その船も船首を防波堤に向けているので、舳先にいる数人しか釣りができない。つまり千代吉丸でも、乗船した釣り人が、少人数の時のみしか訪れない、とっておきの漁場なのだ!
「仕掛けをテトラポッドの間に落とし込んで、時々しゃくり、餌をカサゴにアピールしてください」
小堀の指導通り、オモリを前方に振り入れて、仕掛けをテトラポッドの間に落とし込む中湊と熊坂。
「こんなに浅いんだね」
水深の浅さに驚く中湊の持つAトリガー・エビタイの竿先が、早くもブルブルブルッという魚信をとらえる。
千代吉丸秘蔵のポイントの魚影はすこぶる濃い!!
聞き合わせるようにゆっくりと竿を立ててリールを巻き上げる。取り込まれた魚はもちろん、緋色に輝くカサゴだ!
「深場の鬼カサゴを釣りに行ったことはあるけど浅場のカサゴは初めてでね、でも浅いと、アタリが明確で、これはおもしろいね!」
ライトタックルといわれる軽い釣り道具で行う浅場のカサゴ釣りのおもしろさを、一尾目にして早くも気付くのは、やはり中湊の魚類察知DNAのたまものか。
一方、熊坂は根がかりに苦戦していた。しかし、海底に潜むカサゴ釣りに根がかりは付き物。むしろ根がかりは攻めて釣っている証拠なのだ。
「根がかりのたびに小堀さんに外してもらって申し訳ないです」
と言いながらも、東京中のワイン好きを西麻布の『葡呑』に引き寄せるその才能は、ついにカサゴをも自らの餌に引き寄せる!
「釣れました〜!」
船上に巻き起こる拍手。
「根がかりが多いから仕掛けは一杯持っていった方がいいよ」
船長も釣行前にはそう言っていたにもかかわらず、コツを飲み込んだ熊坂の根がかりはぱったりと減り、代わりに釣果だけが増えていく。
中湊はあいかわらずの絶好調。
防波堤突端から、にぎわう海水浴客たちで砂浜を七色に染めた猿島周りのポイントに移動しても、二人の怒濤のカサゴラッシュは続き、午後4時にはクーラーは緋色で埋めつくされていた。
魚好き、海好きが高じ、海沿いに住み始めた中湊が、カサゴでズンッと重くなったクーラーを肩に担ぎ、船を降りながら呟いた。
「やっぱりいいなぁ、海は」