
「私がいたフィレンツェは新鮮な魚が少し手に入りづらい場所だったんです」。イタリアで単身5年半も修業をしてきた幸田シェフ。魚の流通、管理に関しては、イタリアよりも日本の方がずっと上だという。
「だからフィレンツェのお店では、ちょっと新鮮な魚が手に入ると、あえてエラは取らないで、付けたまんまアクアパッツァとかにするんです。『ど〜だ、これだけ新鮮だぞ』って自慢するみたいに。でも普段から新鮮な魚の多い日本でそれをやるとさすがに引かれちゃいますもんね」。しかし、そんな新鮮な日本の市場の魚よりも、さらに上をいく新鮮な魚といえば、自らが釣り上げた魚だ。
幸田シェフはその最上級の素材で、前菜、パスタ、メインとコース仕立ての三種のレシピを披露してくれた。
「カルパッチョに使ったイサキは、もうさばいた時に、普通の魚と身の色が違いましたね」
そのイサキを薄くそぎ切りにするとき、幸田シェフが使ったテクニックがおもしろい。
普通は皮を引いて(取って)から、サク状の身を薄くスライスしていくのだが、皮を取らず、その皮をまな板にピタリとくっつけるように身をまな板に置いて、ナイフを身に入れていく。
ナイフの刃が身と皮の間まで来たら、ナイフを寝かせ、皮をまな板に残すような形で身だけすき取るようにスライスしていく。ぜひ真似したい。
さばいたカサゴのアラも無駄にせずに旨みを抽出し、初夏を感じさせる緑鮮やかなブロッコリーとまとめあげたパスタ。香草パン粉が、なんともいえないイタリアらしさを演出する。
「イタリアでは、昔、南の方の貧しい人たちは、パスタにかけるチーズが買いたくても買えなかったりしたんですね。それでチーズ代わりに、この香草パン粉をかけたんです。香草はイタリアンパセリだけでも充分ですが、もしあればエストラゴンをぜひ入れてください」。ますます本場イタリアそのものの味が楽しめるはずである。
そして自ら釣った尺メバルを丸ごと使ったアクアパッツァ。
「魚以外の魚介類は、今回、手に入りやすいアサリを使いましたが、ムール貝が手に入ればムール貝がいいですね。ようするに何を使ってもいいんです。エビを入れるのも美味しいですし」。ただしエビを入れる場合は熱が通りすぎないように、最後の最後に鍋に入れるように気をつけてほしいとのこと。
ちなみに、最後に釣り上げた大きなホウボウは?
「お客さんに釣りに行った話をしたら『ぜひ食べたい』ってことになって、これもアクアパッツァに仕立てたんです」。そして、その感想はどうでした?
「それはもう!」。
聞くのがヤボだったようだ。